百日紅 ～Miss HOKUSAI～

Ⓒ2014-2015 杉浦日向子・MS.HS／「百日紅」製作委員会

百日紅（さるすべり）　～Miss HOKUSAI～（2015）

監督：原恵一

原作：杉浦日向子　「百日紅」

日本

声の出演：杏、松重豊、濱田岳、高良健吾、立川談春

まさか『クレヨンしんちゃん』の監督が、この作品を作り上げたとは思えなかった。

それほど作風が違うのだ。

動きのスピード、美術の細かさ、台詞のやりとり、どれをとっても『クレヨンしんちゃん』とは異なる表現として丁寧に作られている。

『クレヨンしんちゃん』は、デフォルメを楽しむものかなと思っているが、その対極にあるように思う。

でも、対極だからできたのかもしれない。

近いと似たり寄ったりになってしまい、今回のような作品はできなかったかもしれない。

お栄は葛飾北斎の娘。

彼女は父親の北斎と、アトリエになっている長屋で寝食を共にする。

そこにはもう一人、絵師の男が転がり込んでいる。

さらに野良の子犬もいつの間にか一家（？）の仲間入り。

そんな“出入り自由”の長屋が舞台だ。

Ⓒ2014-2015 杉浦日向子・MS.HS／「百日紅」製作委員会

今では家の施錠は当たり前だが、私が子どもの頃は夜寝るときにかけるくらいで、日中は鍵なんてかけていなかった。

近所の友達もそのまま家に「遊びましょ！」って言いながら、勝手に入ってくる始末で、いつの間には家の中には五、六人の子どもたちが集まって暴れまくっていることもしばしば。

おやつの時間には、親は気を使うわけではなく普通にお菓子とジュースを用意してくれた。

友達の家に行ってもそうだった。

それを考えると、現代社会の人間関係は、なんともクローズになってしまったと感じる。

その分、インターネットでつながっているのかもしれないが、そのやり取りの多くは文字や記号による伝達だ。

人間のコミュニケーションは70％以上が非言語的なものだという研究者もいる。

相手の表情、距離感、体の向き、目つき等々、その情報は質、量ともに膨大である。

文字や記号だけで行われているコミュニケーションで、どこまで自分の意図するところを伝えられるのだろうか？

昨今の、ネットでの殺伐として事件などを見ていると、益々、そんなことを考えてしまう。

Ⓒ2014-2015 杉浦日向子・MS.HS／「百日紅」製作委員会

この作品ではお栄や北斎が不可思議な現象を経験していく。

空を行く龍の力を借りたり、寝ている時に首が伸びる（？）女を目の当たりにしたり…。

それは、お栄の妹もしかり。

妹は生まれながらにして目が見えないのだが、それを補うほどの想像力をもっているかのようだ。

それらの“想像力”は現代人が失いつつある力のようでもある。

かつて体験した目や耳や肌で経験した感覚を、現代人はどこへやってしまったのか？

お栄や北斎の時代を描いたこの作品は、その感覚を取り戻すきっかけを与えてくれるようだ。

5月9日（土）より、ＴＯＨＯシネマズ 名古屋ベイシティ他、全国公開！

百日紅 ～Miss HOKUSAI～　公式サイト：sarusuberi-movie.com